ゾウの見た夢

残念ながら年には逆らえないおばちゃんの独り言

脳内の世界

仕事柄、認知症の方と接する事が多いのだが

認知症の世界は時々面白いと感じる事がある。

 

認知症を決してバカにしている訳ではないし、認知症を介護する人が

どれだけ大変かは、身内を通して(完全ではないが)何となく分かる。

 

私が中学生の頃に同居していた祖父は認知症だった。

認知症になってから同居したのだが、日々色んな事があって、両親、特に母や祖母は大変だったと思う。

スローな動きで、トイレもままならないはずなのに、勝手に外に出て行ってしまうスピードはピカイチだったし、道路のど真ん中で動かなくなることもしょっちゅうだった。

祖母や私達を見て身内である事も忘れ、商売人であった祖父は私達をお客さんだと思い、接してくることもあった。

 

でも私はそんな認知症の祖父がけっこう好きだった。

私が直接世話をしていた訳ではないので、そんな呑気な事が言えるのも事実だと思う。

でも私は祖父が好きだった。

祖父の中で私達の設定がしょっちゅう変わったり、急に知らない人の名前を呼びながら私に近づいてきたり、その相手をする事に不思議な感覚を覚え、少なからず興味を持ったのは、その頃私が演劇部であった、というのも関係があったのかもしれない。

演劇部だったゆえ、祖父が設定する人物に即なりきるのは苦ではなく、むしろお芝居の延長のような気がしていたのかもしれない…と今になって思う。

 

面白がって祖父に接している内にいつの間にか祖父への接し役は私になり、道路の真ん中で動かなくなったり、畑に侵入して出てこなくなった時など、私は家族から駆り出されるようになったのだが、これまた不思議な事に、祖父は私が呼ぶと素直に応じてくれた。

きっと認知症でも「あなたが好きですよ」という気持ちは伝わるように今思う。

私の「祖父が好き」は、きっと伝わっていたんじゃないかと思うし、そう思いたい。

 

あの頃の経験が今の仕事に役立つ事があって、人生の経験っていつ何が役立つか分からないもんだ、とふと思う。

毎週会っている患者さんに「お口の中を掃除してもらえるなんて初めてだわー」と毎回言われても、毎回ケアしている舌も「舌も掃除されるなんて初めて!」と何度も言われても、素直にこちらも毎回新鮮な気持ちで「それは良かったです!」と思い続けられたらいいな、と思う。

 

今でも少しなら女優になれる(笑)。