ゾウの見た夢

残念ながら年には逆らえないおばちゃんの独り言

太陽と北風

訪問歯科の仕事をしていると、時々今すぐメモしたくなるような言葉に出会う事がある。

認知が入っている人も入っていない人からも発せられるある種の言葉は考えさせられる事が多く、ただ聞き流すには勿体ないのだが、なんせ私の記憶力の低さがそれらの言葉をこぼれ落ちさせるのだ。悲しいかな私の記憶力の低さは今に始まったことじゃない。

 

今日は在宅訪問があり、そこのヤマさん(仮名)は冗談と歌が好きなおじいちゃん。根っから人が好きなんだろうなあと思わせるヤマさんはお話を聞いていると8人兄弟の末っ子だったらしい。

「88になったけど、8歳から1年に一曲覚えたたとすれば80曲は覚えているはずだ」

と言って色んな歌を歌う。

ある時、ヤマさんが連絡がつかなくなった友人の話をした時の事。

「心配だけどよ、でも親子の間ですらそういう事はあるし、珍しいことじゃないよな。こんな時にはね、『心に太陽を 唇には歌を』(何かの歌の歌詞らしい)だよ。俺ね、あの歌詞の通りだと思うんだよ」

そう言って遠くを見ながらハハハと笑う。

 

人が大好きな事が滲み出ているヤマさんは、本当は心配で仕方がないのだと思う。でもその「心配」の沼にハマってしまったら良くない事も分かっていて、自分を律しているのだと思う。

自分の心に太陽を置くか、沼を置くか。

それを意識するだけでもきっと人生は変わっていくだろうな。

 

またある時は、私の娘が思春期真っただ中である事を伝えた時、

「反抗期があるとしっかりした大人になるんだよ。おれの娘なんて「太るから食べない!」とか言いながら、陰で食べてんだよなあー。ハハハ。

ああでもねえ、反抗期の間でもお母さんが明るければ、それだけで子供は助けられるんだよ。嫌な事があっても家の中が明るければ「お母さんったら何よもうー」なんて言いながら嫌な事が軽減しちゃうの。でもこれは明日良くなる、とかそういう事ではなくて、長い目で見たときね、その子は自分で学んでるの。そして自分が親になった時、それができるようになる」

なんて教えてくれる。

ああ、本当にそうだな。時にはキレる事もあってもいいけど、でも基本、あっけらかんとしていた方が娘だってどれだけ救われるだろう。

我が家は一人っ子だからどうしても親のベクトルが集中してしまうから。

ただ、これは自分の心との闘いでもある。あれやこれや言いたい自分の気持ちをぐっと抑え、自分を納得させ(時には納得しなくても)、心に太陽を作る。

親は子供に鍛えられる存在でもある、って事だ。うううー。辛いぜ。

 

親はいつまでたっても子供にとって親で、親にとって子供はいつまでたっても子供。

 

この仕事で高齢者の方々に接しているとそれを感じる事がある。今は亡き親の存在に励まされている、という方の話は聞く。勿論この世の中、思い出したくないという人だっているだろう。

 

命を繋ぎ、育んでくれた人の存在の繋がりの強さ。良くも悪くも逃げられない程に強い「縁」のある人。

考えればその繋がりはどこまでも不思議である。