前回の続き。
私はパートでお年寄りの口腔ケアをしているって話を書いたんだけど、色んな方に会って思うのが「ありがとう」と言ってくれる人と暴れる人(拒否)する人といるけれど、この違いって何だろう?ってよく思う。
別に「ありがとう」って言われる為に仕事をしている訳ではないけど、でもやっぱり言われると嬉しいものだし、次への活力にもなるし、逆に「ありがとう!」って言いたくなる。
で、見ていて分かったのは、認知が入ってくると理性の抑制が利かなくなるのだろうな、と言うこと。だから恐らく抑圧されたものが出てきたり、「本来の自分」が出てくるような気がする。
根っから明るい人なんだろうなあって人もいれば、この人ってどんな人生歩んできたんだろう?って思うような人もいる。ずーっと滅入る様な事を言い続けていたりする人は、もしかしたら何か押さえ続けたものがあるのではないだろうか。勝手な想像だけど。
以前、良かれと思って大きな声でなるべくハキハキ喋る私の言い方が気に入らない、と言った女性の方がいた。
「そんなキーキー話す言い方は嫌い。私は歌うような話し方が好きなの」
歌うような話し方ってどんなの?ってハテナマークがいくつか浮かんだけど、試行錯誤で間を伸ばすようなおっとりとした言い方にしたら、受け入れてくれるようになった事がある。
因みにその方は昔日本舞踊の先生だったらしく、だからこそだろう、音に敏感だし、認知が入っていたとは言え、根っからの芸術家だったんだと思う。
で、今一番気になっているのが103歳のキーさん(仮名)。
目が鋭くて、一睨みされるとその迫力に背筋が凍るwww。
おばあちゃんではなく、どちらかと言えば「姐さん」と呼びたい。
そのキーさんの口腔ケアに対する拒否は凄まじく、慣れの為に口元に触れた瞬間からゴングは鳴る。
「うわあ!?ちょっとちょっと、そういうことかあーーーーー!!!!!」
と叫び、歯ブラシを頑張って入れても残存歯で激しく噛み、挙句の果てに唾まで吐きかけるという凄まじさ。
噛む
唾をかける
絶えず叫ぶ
そして暴れる
毎回この4点セットなんだよねー。
いや、正直ね、103歳だしこんなにケア嫌がるんだったら(因みに毎回スタッフに押さえてもらってる)もうやらなくってもいいじゃんって最初は思ってたのよ。
でも103歳の割に歯が残っているし、スタッフの方も暴れるから出来ないし、って事でケアしてるんだけど、最初はほんと大変だった。
っていうか、こんなに大きな声で叫べて、噛む力強くて、唾吐けるって(年を取ると唾液の量って減ってくるんだよね。しかも唾を吐く行為は唇の力を結構使います)どんだけーって感じよ。
ほんと、ある意味すごいの。
で、そんな状態が続いていたんだけど、ある時期から唾液の量が減ってきて唾を吐こうにも吐けなくなったんだよね。
聞くと食欲が落ち、水分も取れなくなってきているそう。103歳にもなれば自然とそっちの方向に行くことは何ら不思議はなく、「そうなんだ、ではこちらも少しでも心を込めてケアさせて頂こう」、なんてと思いながらケアをしていたわけですよ。
唾吐く以外の噛む、絶えず叫ぶ、暴れるは健在なんだけど、暴れる力も少し弱まったような…。でも正直唾吐かない分ケアはしやすくなったのは事実。
ところが、ところがですよ!
先日ケアに入ったら、なんだかお口が潤っているではありませんか!!!
で、お口が潤ってきたからでしょうか、久々に唾を吐かれたのであります。もーうびっくりよ。マジびっくり。
でもね、それより驚いたのが自分の反応。
「わー!ひっさしぶりだわー!」って、どちらかと言えば歓迎に近い感情が湧いたという、謎のびっくり。私Мじゃないんだけどなあ。(Sでもないけど)
スタッフさん曰はく、ここ最近食べられるようになり、水分も取れるようになったとの事。そう、
まさかのV字回復!!!
キーさんすげーなー。生命力強!
キーさんに慣れてきた私は、今ではこの恐怖の4セット(かじる、唾を吐く、叫ぶ、暴れる)を「自発的機能訓練」と心の中で呼んでいて、元気かどうかのチェックに使っております。
(※機能訓練=年齢を重ねると舌の動きや口の動きなどが弱まる事から、発声やお口の体操のような事をし、口の中の機能を維持する事)
血圧大丈夫かなーなんて心配もあったんだけど、スタッフの方はちゃんとバイタルチェックしてくれて大丈夫そうだし、何より口腔ケア以外でも色々叫んでいるらしいのよ。
って言うかね、キーさんがどんな人生を歩み、どんな人だったのか、知る事は出来ないのが残念ですが、私個人としてはすごーーーーーっく気になるのであります。